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地上から見えない水路「暗渠(あんきょ)」をめぐって


暗渠とは  デジタル「大辞泉」(小学館)では,「地下に埋設したり,ふたをかけたりした水路」と説明があります.反対語は「明渠(めいきょ)」.水面が見える川や水路を「明渠」,木材やコンクリートなどでふたがされ,水面が見えなくなってしまった川や水路を「暗渠」と表現します.「暗渠」と一口に言っても定義・分類するといろいろあるようで,なかなか奥深いものです.


 さいたま市には荒川を始め,芝川,綾瀬川など多くの河川があります.市のホームページを見ると,ほとんどの河川は農業用排水路でしたが,流域の都市化で都市排水路として変貌したとのこと.こうした都市開発で地下に埋設した水路があり,日頃歩いている足下に実は水が流れている……地下に埋められた水路=地上からは見えない水路と考えると,何だかワクワクしてきます.


暗渠の魅力って?

 暗渠は,緑道として整備されている川筋やコンクリートなどでふたがされていたり,一般道のような通りなどさまざまで,同時に地形の凸凹も味わえます.最近は暗渠散歩,暗渠マニアなど暗渠がブームですが,その魅力は何でしょう.「暗渠パラダイス!」(吉村生,高山英男著,朝日新聞出版,2020 年)によると,暗渠の愉しみには,たたずまい・うつろい・つながりの3要素があるのだとか.


 「たたずまい」は,暗渠のある景色や景観を鑑賞する愉しみ.場所によっては廃墟のようだったり,侘び寂び空間が広がるところもあると言います.また,暗渠を示唆する車止め,水門,マンホール列,銭湯といった“暗渠サイン”を見つけ,鑑賞する愉しさもあります.


 「うつろい」は,暗渠がもつ歴史に触れる愉しみ.川や水路にふたをして暗渠になる背景には必ず何らかの歴史があり,水は恵みにも畏れの対象にもなります.そのうつろいを調べ,尋ね,読み解くことの愉しさです.


 「つながり」は,隠れていたつながり,まちに潜んだ見えないネットワークが見えてくる愉しさ.たとえば,日頃私たちが目にする幹線道路や鉄道路線の地図.路線図上の駅と駅は何の関係もないように見えますが,暗渠の経路をたどると遠く離れた駅と駅が,実は地中に埋められたひとつの川でつながっている,ということがあるそうです.見えない川の川筋を辿ると新たなつながりが浮かび上がり,地形の高低差も重なって脳内地図ができあがるそう.暗渠初心者がその域に達するには,まだまだ時間がかかりそうです……


大宮公園のボート池と植竹遊歩道

 予習を終えたところで,「埼玉凸凹地図」(昭文社,2022 年)を片手に,身近な暗渠を見つけるまち歩きに出かけました.

 北区にある植竹遊歩道はかつての流水路が暗渠化された遊歩道です.古地図を見ると遊歩道の辺りは田んぼがあったことがわかります.さいたま市民に馴染み深い大宮公園.公園内にはボート池があります.



 江戸時代,大宮公園の辺りは氷川神社裏手の谷になっていました.大正期に入ると「氷川公園改良計画案」が作成されます.昭和期に入り,氷川神社を心とした大宮公園の大規模な整備,拡張が進められる中で公園内に池が設けられました.公園が整備された当時,上流部からは池に水が流れ込み,ボート池として市民に親しまれていました.しかし,生活排水の流入から池の水質が悪化し,現在は「ボート池」の名称だけが残っています.流水路にふたをした時期ははっきり分かりませんが,大宮公園北側の上り坂の先,JR 線の源太郎踏切を渡ると植竹遊歩道があります.


くるくる雰囲気が変わる愉しさ

 この源太郎踏切,見沼区から北区に抜ける道としてよく通ります.左手に大宮公園と県立歴史と民俗の博物館を見ながら,東武アーバンパークラインとJR 東北本線の踏切を連続して渡って中山道方面に抜け,交通量も多い通りです.そんな馴染みのある道路脇から入った小径が暗渠だったとは驚きました.


 植竹遊歩道には,暗渠サインの車止めがあります.住宅の間をぬうように蛇行していて,道幅も狭くなったり広くなったり,住人との距離がとても近く感じられます.レトロな雰囲気が漂う狭い遊歩道が続くかと思うと,整備された歩道になったり,赤土色のような遊歩道に変わったりします.両サイドにはアメジストやマリーゴールド,ジャスミン,オシロイバナなどの草花や植物,小径の真ん中に植えられた欅の木,手入れの行き届いた花壇などがあり,景観の変化を味わうことができます


 遊歩道は途中で横切る道路にぶつかって終わり,暗渠化された流水路は住宅の間の木々の下を抜け,源流があったのでは……と思われる大宮警察学校まで続きます.住宅の間を通り抜ける植竹遊歩道は暮らしの中に溶け込み,景観変化の愉しさを感じられる小径です.

 日常のあたりまえの風景を少し角度を変え,歩き,調べるといろいろな発見があります.木々が色づく秋に,都市開発の中で変化したまちの歴史,そこにあった人々の暮らしに思いを馳せ,私たちの暮らしの中にある地上から見えない水路=暗渠の魅力を感じるまち歩きに出かけてみませんか.(記 三石麻友美)



参考)

埼玉スリバチ学会監修:埼玉スリバチの達人;昭文社,2022

吉村生・高山英男著:暗渠マニアック!;柏書房,2015

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