前回に引き続き,暗渠めぐりは緑区,浦和区へ足を延ばします.浦和区は高低差のある坂道や谷底を感じる通りも多く,まちの歴史を紐解きつつ地形の凸凹を感じながらの暗渠めぐりとなりました.
見えない水路の流れを感じる
緑区にあるせせらぎ遊歩道は,大間木排水路を暗渠化した遊歩道です.大間木排水路は,JR武蔵野線東浦和駅から徒歩4分の井沼方公園内にあり,線路下を通ってせせらぎ遊歩道につながります.遊歩道は住宅街の中にあり,水路の流れを示すようなデザインが施されていて,暗渠化されていることを感じながら歩くことができます.
途中には特別天然記念物の鳥をデザインしたマンホールがいくつもあり,木のベンチがおかれた休憩ポイントもあります.
遊歩道は尾間木小学校で突きあたり,右に曲がって尾間木中学校で一旦途切れ,排水路は尾間木中学校の敷地内を暗渠で通って再び遊歩道につながり幹線道路にぶつかります.
尾間木中学校のあたりは谷底になっているため学校は盛土して建てられており,中学校裏手の通りは高低差があり谷の深さを感じます.谷底には必ず排水路がある,というのも興味深いところ.
浦和耕地整理が進んで設けられた流路
暗渠は緑道として整備されていたり,コンクリートなどで蓋がされていたり,一般道のような通りもあったりさまざまで,同時に地形の凸凹も味わえます.浦和区の岸町緑道のある通りは,常盤公園の辺りから南下する谷が道路として整備され,およそ2キロに渡って雨水と下水を流すために埋められた排水路です.
浦和駅西口周辺は,大正から昭和初期にかけて耕地整理が行われた地域です.大正期,玉蔵院の北には稲荷湯という公衆浴場があり,埼玉県庁の北には日本赤十字社埼玉県支部(現在は県民健康センター)がありました.
いずれも水を多く使うため排水路が必要となり,谷底の川に流すため直線的な排水路を設けて暗渠化されています.古地図を見ると,水田や小さな谷がいくつもあったことがわかります.かつて谷底は水田として使われていたことも多かったと言われ,およそ2キロに渡って直線的な流路を設けるためには,かなり大がかりな工事を行ったことが推測されます.
まちなかにある変化に富んだ暗渠
暗渠は谷頭に位置する常盤公園辺りから南下して玉蔵院を過ぎ,県庁通りを渡って直線的に進みます.玉蔵院は平安時代に創建されたと伝えられ,地蔵堂には平安時代の仏像が安置され,春には堂内の枝垂れ桜が見ごろを迎え地元の人たちに親しまれています.
県庁通りを渡って途中通りがクランクのように曲がり,少し狭くなって住宅の間を通る岸町緑道になります.緑道はコンクリートで整備され,多少凸凹はあるものの中央には植木や花壇がおかれ,花壇は車止めの役割も果たしています.緑道周辺には谷底を感じる通りがいくつかあり,途中高低差のある通りを横切って岸町小学校まで真っすぐ続いて一旦途切れ,暗渠は岸町小学校の校庭の下を通ってふたたび緑道(白幡緑道)となり,白幡沼を過ぎて笹目川に流れます.
白幡緑道は両サイドの木々が風に揺れて心地よく,途中カワセミなど多くの野鳥が見られる白幡沼でのんびり一息.緑道や白幡沼の木々の奥にマンションが見え隠れするのも都会ならでは.一般道から緑道へと続く暗渠は,浦和の街並みを楽しみつつ自然に触れ,谷底も感じられる変化に富んだ暗渠です.
谷底に行ったら水の痕跡を探してみよう
岸町緑道から東方面に進むと狛兎で知られる古社調(つき)神社があります.谷頭に位置する調神社は古い水源地だったと考えられ,上流部の岸町神明社から住宅の間を通ってJR線のガードを抜け,暗渠は二股に分かれますが,南浦和駅の駐輪場に辿り着くおよそ1.5キロの暗渠も岸町緑道と呼ばれています.
住宅の間を抜ける狭い緑道と通りが交差する複数のポイントは近隣住民のごみ出し場にもなっていて,通りの下に暗渠化された水路があるとは知る人ぞ知るといった感じでしょうか.また,暗渠の上は構造物を建てにくいため,南浦和駅の駐輪場のように都市部では駐車場として利用することもあるそうです.南浦和駅の駐輪場暗渠は,谷底にあった排水路跡と推測されています.
暗渠化された緑道や周辺を歩くと谷が多いことに気づきます.自然の摂理から谷底には水が集まりやすく,都市化が進むと集まった水は地下に埋められることが多くなります.緑道の周辺には高低差を感じる通りが何本もあり,急な斜面や坂,階段がいくつもあります.
岸町神明社から南下すると神明坂と呼ばれる通りにぶつかり,周辺の住宅地には深い谷を感じる通りが何本もあります.その名も久保入りの谷底.住宅地を歩くと谷底を感じる階段をいくつも発見.高低差は約10m,谷の縁から前方に谷の窪みを一望できる景色は圧巻です.谷の傾斜地には阿弥陀堂があり,はるか昔の人々の暮らしの痕跡も.
また,住宅の間を通り抜ける小径は排水路になった暗渠で一部水の流れが見えます.意識して観察しないと通り過ぎてしまう細い小径.暮らしの中にひっそり潜んでいるかのようで,それもまた暗渠の魅力でしょう.排水路はコンクリートで蓋がされた部分もあり,一部開渠になっていて下を覗くと水路の痕跡が…….谷底の地形に足を運んだ際,水の痕跡を探してみるのも楽しいかもしれません.
(記 三石麻友美)
参考)
埼玉スリバチ学会監修:埼玉スリバチの達人(昭文社,2022)
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