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「待ち」の保健室から「街」の保健室へ

いろんな専門職が集まったまちなか保健室

 つなぐ・つくるプロジェクトの目玉の1つに「まちなか保健室」があります.文字通り,地域に出向いていく保健室です.健康相談だけでなく,何となく話をできる場所でもあり,子育てや介護,メンタルヘルスの相談などにお応えできるように,保健師,看護師,薬剤師,鍼灸師,精神保健福祉士,介護福祉士など,いろいろな専門性をもった人たちで取り組んでいます.普段は施設や病院,街の調剤薬局で働いていたり……いろいろな顔ぶれが集まっています.こうしたプロボノ(持っている専門性を無償で提供する)参加で取り組んでいることもまちなか保健室の特徴の1つ.血圧測定やお薬手帳を持参してもらいお薬の相談をしたり,靴裏の減り方で身体のバランスを診たり,障害をもつ子どもとの関わり方について相談があったり,かと思えば趣味の話で盛り上がったり,「何でもあり」「誰でも歓迎」がまちなか保健室のいいところです.


 当初,手探りで始めたまちなか保健室に,「何で薬剤師がいないの?」と疑問を投げかけてくれたのが,薬剤師の沖原雄さん(エニーキャリア株式会社 中央薬局)です.よみさんぽに広告協力いただいている「毎日興業」さんとのご縁から,つなぐ・つくるプロジェクトのメンバーに加わっていただきました.

つながりは創り出していくもの

 子どもの頃から喘息で病院に行くことが多かった沖原さん.そこで働く医療従事者の姿を見て薬剤師の道に進みました.製薬会社の研究職に就き,自転車好きでもあったことから,さいたま市にある自転車のプロロードレースチーム(さいたまディレーブ)のサポートに関わるようになります.しかし,選手から相談を受けた時,薬剤師なのに十分な力になれない.その経験から,「ケアができる仕事がいい」と,街の薬局に転職.薬剤師として患者さんと接しつつ,薬局で眉毛カットやマッサージなど様々なイベントを企画しています.薬局はお薬をもらう場所,薬剤師さんはお薬を出す人,そんなイメージがあります.ところが沖原さんは,お薬を待っている間におしゃべりしたり,マッサージをしたり……そこでの会話の中に,患者さんの気持ちが隠れていたり,病気の発見につながることもあるのだと言います

 そして「地域に役立つ薬剤師になりたい」と,街づくりを考える市民の会にも参加.「いろいろな人と出会い,つながっていくことで可能性が広がってくる」と,会社経営者や地元議員,地主さん,障害者団体など,異業種交流に積極的に参加して,つながりの輪を広げているのだそうです.新しく開業予定の店舗は,何とゴミ収集の職員の人たちの情報提供が決め手でした.街を走るゴミ収集車は,地域の様子を広くよく知る存在でもあり,そうしたご縁の連続が,沖原さんの目指す地域に密着した薬局につながっているのだと思います.

「あの薬局があって良かった」と思える街づくり

 そして,沖原さんからのお声がけで,薬局とまちなか保健室のコラボ企画が誕生しました.同じエリアで活動する障害のある人の就労支援事業所(ゆうの樹)もいっしょに加わり,事業所で取り扱っているフェアトレードのコーヒーをふるまいました.喫茶ルポーズの焼き菓子はあっという間に完売.コーヒーやお菓子をきっかけに薬局に来る人だけでなく,通りを歩く人たちや向かいにある保育園の子どもたちとの交流も生まれました.「次はいつ?」「このお菓子はどこで買えるの?」「コーヒーを発注したいんだけど」などたくさんの声をいただきました.また,薬局の待合室では保健師が健康相談に対応してゆっくりお話を聞いている姿がありました.いつもはただ通り過ぎるだけの場所が,足を止めたくなるような場所に変身したようです.

 

 薬局がお薬をもらうだけの場所ではなく,困った時に相談できる場所,いつでもアクセスできる地域の窓口になれないだろうかと,沖原さんは考えています.薬局とまちなか保健室のコラボ企画第2弾では,ヤギの喜々と楽々が登場します.沖原さんの取り組みは地域に密着した,人と人とがつながる薬局,まさにプロボノ参加で街づくりに関わっていく姿勢そのものです. (記 大澤 美紀)

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